2006/04/25

この世は哀しみで満ち溢れているから 『16歳の合衆国』

本日の映画は『16歳の合衆国』。ある日突然知的障害を持つ恋人の弟を殺した16歳の少年。絶望の淵で一人心を閉ざし静かに世界を眺め続ける彼を中心に、彼を理解しようと努力する更生施設の教師や苦悩し続ける彼や被害者の家族の姿を描いた作品。若者が突発的に起す殺人事件といえば記憶に新しいのが第56回カンヌ映画祭でパルム・ドールを獲得した『エレファント』という作品。どちらの作品も殺人という重罪を犯しているにもかかわらず、怒りや憎しみといった激しい感情の起伏が欠落しているあたり非常に良く似ています。ただしこちらの作品では、彼がそのような行動をとるに至った経緯というか原因のようなものが少なからず描かれていますので、『エレファント』のように突き放されるような感覚はあまりありませんでした。その分主人公のどうしようもない絶望感が作品全体を覆い、たえまない哀しさに窒息してしまいそうな感覚に襲われます。

16歳の殺人犯という言葉から受けるイメージとは裏腹に、彼からは(この作品自体からも)“狂気”というものは一切感じられません。激しい感情は存在せず、ただすべてを諦めてしまった人特有の透明な無気力感が漂っていました。彼を絶望の淵へ追いやった哀しみも取り立てて珍しいものはひとつもなく、私達の身の回りで日常的に起きていることばかり。しかし彼にとってはそんな哀しみに満ちた毎日が耐えられなかった。希望を見出せなかった。16歳という多感な年齢、若しくは彼自身が持つ繊細さ。彼だけが特別だと言い切ってしまえば物事はとても単純で人々は安心できるかもしれないけれど、どうしても私には他人事には思えませんでしたね。だってこの世は哀しいことが沢山ありすぎるから。

この作品で一番印象に残っているのは『大丈夫、心配ない』というセリフ。主人公リーランドにベッキーが救いを求めるシーン、必死に倒木の間を通り抜けようとするベッキーの弟ライアンをリーランドが抱きしめるシーン。『大丈夫、心配ない』。そのセリフの影に見え隠れするどうしようも無い不安や助けを求める気持ち。そんな登場人物たちのギリギリの精神状態が痛いほど伝わってくるこのセリフが耳に残っています。

確かに悲しみの断片の総和は人生よりも短いかも知れないけれども、一度哀しみの渦に飲み込まれてしまったら最後、目に見える世界は一変しそれまでの生活を送ることは容易なことではなくなってしまうのかもしれない。そんな人間の弱さといったものをまざまざと感じた作品でした。
*****作品データ*****
16歳の合衆国 - THE UNITED STATES OF LELAND(2002年/アメリカ)
監督:マシュー・ライアン・ホーグ
出演:ライアン・ゴズリング、ドン・チードル、クリス・クライン、ジェナ・マローン、レナ・オリン
公式サイト:http://www.16sai.jp/
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私には観た後に必ずといっていいほど情緒不安を引き起こす類の映画というものがあります。この作品もそんなジャンルの作品でした。作品が放つメッセージに共感しすぎてしまうのが原因なんだと思うのですが、見た後はホントにぐったりしてしまうんですよね。でも困ったことにそういう類の作品がどうしようもなく好きなんです。だから疲れるってわかっててもついつい観ちゃう。周りの人にかなり迷惑かけちゃうんでかなり嫌がられてますけどね(笑)。
posted by クマ at 19:05 | Comment(6) | TrackBack(4) | ★★★★★



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この記事へのコメント
<激しい感情は存在せず、ただすべてを諦めてしまった人特有の透明な無気力感が漂っていました

仰る通り沈痛ですね。「エレファント」のような圧倒的なものは感じなかったんですが、浮ついたところがない真摯な作品ですね。賛否あるようですが自分も悪くない作品だと思います。
Posted by lin at 2006年04月26日 01:15
linさん
そうなんですよね。「エレファント」の時はありきたりな日常、そしてにどこにでもいそうな少年達の中に潜む狂気みたいなものに打ちのめされましたが、この作品では作品からあふれ出す哀しさと一緒に堕ちて行くといった感じでしたね。
私にとっては「エレファント」よりこちらの作品の方がヘビーでした。でもまた観ちゃうかも(笑)。
Posted by クマ at 2006年04月27日 16:38
こんにちは。TB&コメントありがとうございました。

結構ヘビーですよね、この映画。
クマさんが、この映画を観た後に情緒不安定な気持ちになるのも、なんとくわかるような。。。
Posted by りお at 2006年05月10日 22:44
りおさん こんにちは。
ホント、この作品ヘビーですよね。
見終わった後はただただ哀しくてどうしようもなかったです。
派手さはないけれど、今の社会が抱えている闇みたいなものをとても上図に切り取った作品だと思います。
多くの方に見てもらいたい作品の一つですね。
Posted by クマ at 2006年05月11日 17:19
こんにちわー
この作品、見終わったあとなんとも言えない気持ちにさせられたのが印象深いです。
ライアン・ゴズリング、心に問題を抱えている少年を演じるがうまいなーと思いました。彼はちょっと癖のある役が似合いますよね。新作ステイもおすすめです。
また遊びにきますね!
Posted by akky at 2006年05月26日 08:37
akkyさん
コメント&TBどうもありがとう♪
この作品は観ているときより見終わった後の余韻のほうがズシリときましたね。ほんとシンドかったです。
akkyさんのブログ拝見いたしました。新作もよさそうですね〜。是非鑑賞してみたいと思います♪
Posted by クマ at 2006年05月29日 16:04
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