2006/05/26

『誰も知らない』

主演の柳楽優弥が2004年度のカンヌ国際映画祭で史上最年少、そして日本人初の最優秀主演男優賞を獲得したことで一躍脚光を浴びた作品。1988年に発生した巣鴨子供置き去り事件をモチーフに作成されたとのことですが、実際の事件についてはほとんど知識を持ち合わせていませんでした。結構軽い気持ちで鑑賞し始めたのですが、冒頭から繰り広げられる異常な生活を目の当たりにし、さらにその内容が徐々にエスカレートしていくにつれ、果たしてこの子供達が置かれている状況を自分がちゃんと理解出来ているのかというところがどうにもこうにも気になってしまい、結局のところ鑑賞を一時中断して事件の資料をかったっぱしから読む羽目に。こんなことしてるもんだから鑑賞終了までにはかなり時間がかかってしまいましたが、その甲斐あってとても理解度が深まったのではないかと自分では思っています。

この映画で描かれている子供だけの生活も母親の行動も、一般的な常識とはかけ離れ過ぎていて一見理解しがたいように感じるのですが、一方では全くありえない話ではないかもしれないという思いを少なからず抱いてしまうところが怖いところ。外に出ることはおろかベランダにも出られず、学校にも行けず、一日中気配を殺して暮らしている子供達の姿は母親に対する憤りを覚えるけれど、そんな異常な生活の中、母親と4人の子供達がお互いに協力し信頼し合い、とても楽しそうにそして幸せそうに暮らす姿に一瞬とはいえ正しい家族の姿を垣間見たような気がしてしまうのもまた真実。それゆえなんともいえないやるせなさを感じてしまいます。

個人的には劇中母親の口から語られる「私は幸せになっちゃいけないの?」という問いかけが全てを物語っているように感じます。その主張はある意味率直であり、ある意味身勝手とも言うべきもの。母親の無責任さを糾弾するのは非常にたやすいけれど、生活費を送ったり、たまに顔をみせるなど完全には育児放棄しているわけではないところからなんとなく母親の気持ちが伺い知れる。きっと母親は子供を虐待している意識なんか全くなくて、むしろちゃんと責任果たしてるって思ってる。罪の意識なんか全く無いんだろう。さらに映画には描かれていない事件の背景を読み解くと、どうやらこの母親も被害者でありとても悲運な人生を歩んでいることが解る。思わぬ人生の落とし穴にはまり、自分一人では事態の収集がつけられなくなってしまった後でも、誰一人見捨てることなく彼女なりに愛情を注いでいたのではないだろうか。ただそれが世間の行動規範にそぐわなかった、ただそれだけかもしれない。とはいえ、その行動は当然許されるべき類のものではないけれど。

一方、家族よりも自分の幸せを望み家を出た母親とは裏腹に、最後まで兄弟の面倒を観続ける明の姿にはある種の逞しさ、そして潔さを感じます。途中何度か自分の人生のために時間を使おうとするシーンが出てきますが、結局のところ家族の元に戻りまた世話をし続ける少年。こんなに小さな少年でも家族の命が自分の行動にかかっているという責任を理解しているということなんでしょう。そう思うとなんだかとても切なく、物憂げに遠くを見る明の姿が印象に残りました。そして、長い漂流生活で秩序を失い、身勝手な大人たちから解き放たれ、何の制限も無くなった生活の中で自由にのびのびと過ごす子供達の姿もまたとても印象的でした。厳しい現実の中でも逞しく生き延びる子供達。大人たちは子供達に何をしてあげるべきなのか、そんなことを考えさせられるそんな作品だったと思います。

ともすれば悲惨さばかりが取り上げられてしまいそうな凄惨な事件ではありますが、そこに見える子供達の逞しさや無邪気さに正直救われた気がしました。
*****作品データ*****
誰も知らない - NOBODY KNOWS(2004年/日本)
監督・脚本・編集:是枝裕和
出演:柳楽優弥、北浦愛、木村飛影、清水萌々子、韓英恵、YOU
  →この作品をAMAZONで確認

巣鴨子供置き去り事件 参考ページ
Wikipedeia-巣鴨子供置き去り事件 時系列でまとめてあるので大まかな内容把握に有効
posted by クマ at 16:30 | Comment(4) | TrackBack(5) | ★★★★☆



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この記事へのコメント
こんばんは(・∀・)ノ
この作品のラスト、ある意味物凄く残酷な終焉にも感じました。母親にしろ彼等の周辺の大人にしろ誰も彼等の状況を変えようとしないんですよね。
大人が作り出した社会の犠牲になる子供というテーマでは「カナリア」も近いものがありましたが、この作品のドキュメンタリーチックな演出が映画の主旨によく合っていたように思います。
TBさせて頂きました。
Posted by lin at 2006年05月30日 02:07
linさん こんにちは!TB&コメントどうもです♪
内容はとても興味深かったのですが、見終わった後の後味は悪かったですね。多分linさんのいう残酷さっていうのも原因の一つだろうと思います。きっと私も手を差し伸べない大人の一人なんだろうなぁとか思ってみたり…。

実は手元に「カナリア」もあるのですが、こちらもかなりヘビーそうな内容なので見るのを躊躇しています。ドキュメンタリーチックなのかぁ、うーん…。もう少し浮上してから鑑賞してみようかな。
Posted by クマ at 2006年05月30日 16:48
TBありがとうございます。
良い映画だとは思うのですが、見ていて辛かったです。 もう記憶が薄れていたのですが、クマさんの参考ページの部分も読ませていただいて事件の概要が分かりました。 <カナリア>も疲れますよ〜。
Posted by みのり(楽蜻庵別館) at 2006年06月14日 09:15
みのり(楽蜻庵別館)さん こんにちは。
確かに内容が内容なだけに観ていて楽しい気分にはなれないですよね。私も結構辛かったです。
「カナリア」未だに踏ん切りがつかず放置状態です(笑)
気にはなるんですが、気分がついていかないんですよね〜。
Posted by クマ at 2006年06月15日 15:32
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